インターネット・コミュニケーションの心理学に必要なもの

 最近,インターネット・コミュニケーション,特にブログなどの普通の人が自分で情報発信するツールを利用して自己表現することで人のどんな側面がどのように成長していくのかを心理学的なモデルとして構築したいと考えています。まだまだこれからなんですが,今のところ考えていることをメモしておきます。

 すでに『ウェブログの心理学』というのがNTT出版から出されていますが,僕が言及したいのは,そこで論じられていることとは少し違ったものです。
ウェブログの心理学

 インターネット・コミュニケーションに特徴的なことは,コミュニケーションを媒介するツールであるインターネット上でのサービス(例えば,無料のブログ・サービス,Eメール,SNSなど)自体がものすごいスピードで変化することです。この媒介する道具は,それが提供するサービスの内容によって,私たちのコミュニケーションのあり方自体を変えます。例えば,ブログにしても,もしトラックバック機能や今日のようなロボット検索機能が無かったなら,興味は共有しているけれども,お互い他人である人同士をこれほど簡単に結びつけることはできなかったでしょう。
 だから,インターネット・コミュニケーションの心理学的理論は,この媒介ツールの利用とツールの変化,ツールの変化によるコミュニケーション自体の変化,コミュニケーションの変化によって「個人がそこで何を獲得するか」ということの変化,などなどという,複雑なものを範疇に納めるようなものでないといけないと思っています。
 その候補を心理学のなかで探してみると,適任なのは,「活動理論」だろうと思います。活動理論は,ヴィゴツキーの理論をレオンチェフが発展させたもので,個人の活動を媒介する道具の変化が個人の活動や個人内過程をどう変化させるかということを説明しようとする理論です。ただ「活動理論」にもいろいろな解釈の仕方があって,個人内過程にほとんど興味を払わない研究者もいます。しかし,それでは面白くないので,僕は「個人内過程」と「媒介ツール」,「媒介ツールを使った個人間活動」がそれぞれどう関わりあいながら,人が成長するのかというプロセスを理論化したいと思っています。
 このあたりの心理学理論について,勘所を押さえた上で短くまとめられているものとしては↓の本がおすすめです。第2章です。
認知心理学〈5〉学習と発達
 あと,ついでなんですが,とっても面白かったので,これもついでに紹介しておきます。
メディア・ビオトープ―メディアの生態系をデザインする
 ブログなどの小さいメディアをみんなが使いこなしていくことの可能性が希望を持って語られています。みんなが楽しみながら,使いこなしていくと何か楽しいことが起きそうな気になってきます。あと,日本のメディア史を簡単に説明した上で,分析を加えているのですが,これも案外聞かない話が多くて,ちょっと感動しました。