博士論文要約


今日の写真は,「太陽の塔on雪印」です。今日のようなwindyでsnowyな夜にぴったり。

そういえば,このブログは研究のために書いているので,できたての博士論文の全文を以下に貼り付けておきます。。。っていうのは半分冗談で,要約を貼り付けておきます。博士論文全文をブログに貼り付けたら,笑えるなあ。でも,人格が疑われるような気がするので,ここは自重しておきます。

さあ一仕事を終わったから,これからプログラミングの勉強もできるし,他の研究もできるって話です。はい,つぎつぎ。

個人の思考を促進する問題解決型議論の談話プロセスの解明
― 葛藤プロセスと協調プロセスの検討を中心にして ―

本研究の目的は,曖昧な課題構造の問題解決型議論において,個人の思考を促進する談話プロセスを明らかにすることであった。「曖昧な課題構造の問題解決型議論」とは,①明確な「正解」がない,②曖昧な形でしかフィードバックを受けることができない,③問題空間の範囲設定が無い,④解の適切さを評価する基準自体を参加者自身が設定しなければならない,といった特徴を持った議論である。このタイプの議論は,従来の思考研究でよく検討されてきたような良く定義された実験場面とは対照的に,私たちが日常生活でしばしば遭遇するタイプの議論である。本研究では,議論を通じて個人の考えが変化したかどうかを思考が進展したことの指標とし,どのような談話プロセスが個人の思考の進展を促進するのか検討した。
 関連する先行研究をレビューしたところ,話し合いを通して思考が促進されるプロセスとして,葛藤プロセスと協調プロセスの2つが,思考を促進する談話プロセスとして重要であることが分かった。「葛藤プロセス」とは,反論などの意見のぶつかり合いを含むやりとりを指している。「協調プロセス」とは,相手の発話内容を確認したり,解釈したりすることによって,互いに理解を共有した領域を形成し,その上で互いの考えに働きかけるようなやりとりを指している。このレビュー結果に基づき,本論文では,「葛藤プロセスと協調プロセスが議論を通しての思考の進展を促進する」という作業仮説を設定し,研究Ⅰ〜Ⅳでこの作業仮説を検討した。
研究Ⅰでは,大学生による小グループの議論を対象として,議論中の発話ターンをコーディング・カテゴリーによって分析し,それぞれの出現頻度を算出した。このコーディング・カテゴリーによって,葛藤プロセスに対応する「葛藤的発話」と協調プロセスに対応する「協調的発話」の生起頻度を特定することが可能である。「葛藤的発話」および「協調的発話」の発話頻度と「議論を通した考えの変化」との関連を検討したところ,「協調的発話」が考えの変化を促進することが示唆された。それに対し,「葛藤的発話」については,先行研究で報告されているような明確な思考促進は確認されなかった。
研究Ⅱでは,研究Ⅰの結果が再現されるかどうか検討するために,参加者と課題内容を変更し,研究Ⅰと同様の結果が得られるかどうか調べた。その結果,「協調的発話」の効果は安定して見られた一方,「葛藤的発話」については安定した思考の促進効果は得られなかった。
研究Ⅱでは,研究Ⅰの結果を再検討するために,参加者と課題内容を変更し,研究Ⅰと同様の結果が得られるかどうか調べた。その結果,「協調的発話」の効果はここでも見られた一方,「葛藤的発話」については安定した思考の促進効果は得られなかった。
 そこで,研究ⅢおよびⅣでは,なぜ「葛藤的発話」の効果が安定して見られなかったのかを探索するために,「葛藤的発話」が考えの変化を促進する条件を探索することを目的として行われた。研究Ⅲでは,「意見を対立させるような課題構造の議論においては,『葛藤的発話』が考えの変化を促進する」という仮説を立て,対立形式の議論と自由形式の議論において「葛藤的発話」の思考促進効果を検討した。しかし,対立形式の議論においても,「葛藤的発話」が考えの変化を促進するという知見は得られず,この仮説は支持されなかった。
 研究Ⅳでは,「効果的な反論を生成する能力が高いサンプルを対象に検討した場合,『葛藤的発話』の思考促進効果が見られるのではないか」という仮説を立て,一般の大学生に比べて反論生成能力が高いと考えられるディベート経験者を研究対象に含めて検討した。その結果,ここでも仮説は支持されず,対立形式・自由形式いずれの議論においても,「葛藤的発話」が考えの変化を促進するという結果は得られなかった。しかしながら,反論生成能力が高いディベート経験者の方が非経験者に比べて,議論を通じての考えの変化が大きいことから,なんらかの経路で反論生成能力が思考の促進に関わっていることが示唆された。そこで,単に「葛藤的発話」に相当する単発の発話ターンをカウントするのではなく,反論を効果的に絡み合わせるような議論パターンのあり方を探索し,その出現傾向の違いをディベート経験者ペアと非経験者ペアとで比較した。その結果,ディベート経験者ペアの議論では,非経験者のペアよりも,互いの考えの違いを明確化させ,互いに相手を説得しようとして反論を繰り返す「反論ラリー」が生起する頻度が多いことが分かった。このような結果から,ディベート経験者の議論の効果性を支える談話プロセスの1つとして,「反論ラリー」のような議論パターンがあるのではないかと考えられる。つまり,「葛藤的発話」の効果は,単に相手の考えに対立する発話を生成するだけでは得られず,参加者が互いにかみ合った反論を繰り返すことで論を詰めていくような議論パターンに参与することで初めて得られるのだと考えられる。
それに対して,「協調的発話」には,「互いの理解の共有領域を形成した上で互いの考えに働きかけることで思考が促進される」というプロセスに加え,「説明を引き出して,思考の進展を促進する」という機能もあり,さらに「葛藤プロセスの中でも反論を効果的なものにするために議論を調整する機能」もあることが分かった。つまり,「葛藤的発話」に比べて,「協調的発話」は様々な経路を通じて,思考を促進するプロセスに関わっていることで,比較的安定した思考の促進効果が見いだされたのではないかと考えられる。