教室の談話を評価する2つの視点

 ところで今僕は,プログラミングに夢中です。授業の出席管理とか助手の業務にも使えるし,その経験が自分の研究でもすぐに活きてくるので,雑用が多くても結構有意義に時間が過ごせます。何事も自分で自分にブレーキをかけないのが大事だってことを改めて思い知りました。プログラミングってなかなか強面で,とっつきにくく,やろうって気になりませんけど,やり始めたらこんなに楽しいことは無いって感じです。やってみてよかったよかった。
 それとも関わってきますが,前回に引き続き,下の論文関係のお話です。

Matsuo, G., Tomida, E., and Maruno, S. (2006) Classroom discourse analysis for the era of accountability: a method for discovering the most contributory utterance to extended reading of literature and its evolving process. Annual meeting of American Educational Research Association.
 
 ですが,前回の日記は自分で読んでも頭が混乱して意味がよく分かりませんので,別の観点から今日は書き込みます。
 今,僕が考えている教室談話分析を理解するための,大きく分けて二つの分析の視点があります。1つは,間テクスト性(Intertextuality)という観点で,もう一つは,間文脈性(intercontextuality)という観点です。
1.間テクスト性 Intertextuality
 前者の間テクスト性という言葉は,もともと哲学者のジュリア・クリステヴァの言語理論で提案された言葉で,「本というものは,他の既に書かれた本の引用から成り立っている」とか「本が読まれるときには,読者の解釈の枠組みが読者が既に読んだことのある本に影響されて成り立つので,読み直されるたびに,本は他の本との対話という形で,読みが成立する」とかという現象を指す語です。
 それで僕が自分で定義して使っている「間テクスト性」という概念は,この文学理論の用語を教室での営みに転用したものです。教室の議論(たとえば国語の読解の授業を想定してください)では,児童が教科書に書いてあることを理解するために,日常の経験や過去の学習内容に照らし合わせて理解しようとします。このとき,教科書を「テクスト1」とします。そして「児童Aの過去経験や学習内容」を「テクストA」とします。「児童Bの過去経験や学習内容」を「テクストB」とします。また,教師の教科書についての理解や教授方針を「テクストT」とします。そうすると,教室で読解について議論しているという状況は,「テクスト1」を「テクストT」に従って,「テクストA」や「テクストB」の言葉を使って再構築するという作業に他なりません。このような「テクスト」間の相互作用が教室談話の間テクスト性である考えられます。このような定義と同様な発想は,アメリカの談話研究にも見られますが,僕の研究では特にこのような意味で用いています。このような観点から考えると,児童が教室でどれだけ深い理解に達することができたのかという問題は,児童が教室でどのテクストからどの「言葉」を引用して,自分なりの新たなテクストを再構成したのかという問題として理解することができます。すなわち,ある子どもの発言内容が誰と誰と誰の発言からの引用として成り立っているのかということを追求していくことで,子どもの読解を理解することができるという訳です。また,教師の発話がどのように引用されているかということを明らかにすることで,教師が読解のガイド役として十分な役割を担えたかどうかを明らかにすることにも繋がるでしょう。

2.間文脈性 Intercontextuality
 こちらは文脈と文脈との関連性という意味の用語になりますが,ここでは同じ単元の異なる授業時間の関係性をあらわす言葉です。誰でもその場で発言された内容と自分の考えを有る程度結びつけて考えることができると思います。しかし,難しいのは前の時間展開した議論と,今回の授業での議論を結びつけてより深い理解に達するというようなことです。このような授業間の関連性は,思考の深まりを端的に示すものだと考えられます。従って,児童がどれほど間文脈的な発話の引用を行っているかを明らかにすることができれば,さらに深いレベルでの活動を評価することに繋がります。間文脈性のイメージを絵にしてみると,以下のような感じです。マイクロソフトの提供するクリップアートを使わせてもらって僕が作りました。

 で,上に紹介したような観点での分析をどうやって進めるのか? 1つのやり方は質的な分析で,研究者が自分で授業の記録を読みながら分析していくって方法です。まあこれでも良いのですが,如何せん,時間がかかるし,分析がうまくいったところで,質的な研究の論文は読者が少ないので,インパクトに欠けます。そこで,今勉強してるプログラミングが活きてくる訳です。う〜ん,うまくいくといいなあ。

 ちなみに,今やっている分析は,8月10日に行われる予定の,関西大学人間活動理論研究センター」でのCHATセミナーで発表予定です。